コラム

訪問看護の1日完全ガイド 朝の準備から訪問計画・ケア・連携・感染対策・記録まで

朝の準備は何から始め、訪問計画はどう立てるのか?

訪問看護の1日は、単に「家を回る」だけではありません。

安全・質・効率を担保するための準備と、根拠に基づく訪問計画づくりが核になります。

以下では、朝の準備を何から始めるか、そして1日の訪問計画をどう立てるかを、実務フローと根拠の両面から詳しくお伝えします。

朝の準備の基本ステップ
– 自身の体調・身だしなみ確認
– 体調が不良のまま訪問すると感染拡大や判断ミスのリスクが上がるため、出勤時に自己評価(発熱・咳・倦怠感等の有無)を行います。

必要時には上長へ報告し勤務調整。

身だしなみ・名札・動きやすい服装・爪・髪なども安全・清潔の観点で整えます。

– 感染対策の準備(標準予防策を前提)
– 手指衛生資材(速乾性擦式手指消毒剤、石鹸、ペーパータオル)とPPE(手袋、マスク、エプロン、ゴーグル等)を携行。

清潔物と汚染物が混在しないようバッグを区画化し、清潔→不潔の動線を確保します。

感染症疑いの利用者は訪問順を後ろに回す方針をチームで確認します。

– 機器・備品の点検と補充
– バイタル機器(血圧計、聴診器、体温計、パルスオキシメータ、血糖測定器)の作動・電池残量・消毒状況を確認。

処置物品(滅菌ガーゼ、テープ、創傷被覆材、カテーテル関連、ストーマ用品、吸引チューブ、消毒薬、廃棄容器)を利用者の予定処置に合わせて補充します。

PC/タブレット、モバイル回線、充電器、予備電源も忘れずに。

– 薬剤・温度管理が必要な物品の確認
– インスリン、点眼薬、注射薬などの温度管理品は保冷バッグ・温度計で管理。

麻薬等の向精神薬がある場合は施錠保管・数量点検・記録簿の整合確認を実施し、持出と返却のダブルチェック体制をとります。

– 移動手段の安全点検
– 車両・自転車・バイクのタイヤ、ブレーキ、ライト、燃料、保険書類、緊急キット(発炎筒、レインコート、携帯充電器、簡易工具)を点検。

都心部では駐車コインや交通IC残高も確認します。

気象や災害注意報の把握も安全管理の一部です。

– 情報セキュリティと機器ログイン
– 電子カルテ・訪問看護ソフトへ安全にログイン。

端末の暗号化・パスコード・リモートワイプ設定を確認し、紙資料は最小限・氏名の完全表記を避ける等の配慮。

持ち出し資料のリスト化で紛失防止。

– 朝ミーティング(申し送り・安全カンファ)
– 新規利用者、退院直後、終末期、医師の新たな指示、夜間の緊急対応、感染症情報、特別訪問看護指示書の有効期間などを共有。

ハイリスク事例(気道管理、輸液、褥瘡ステージ深い、頻回低血糖、独居・認知症・虐待疑念)を抽出し、フォロー体制とバックアップ要員を決めます。

– 当日の訪問計画の最終調整
– 地図・渋滞予測・天候を踏まえ順路を再確認。

時間帯指定(インスリン直前、点滴開始時刻、家族在宅時間、他サービスの訪問枠)を満たすよう並び替え、必要なら利用者・家族へ事前連絡(到着目安、鍵・ペット・駐車の確認、発熱の有無)を行います。

– 持ち出し記録と出発時の安全確認
– 持出物品チェックリストのダブルサイン、訪問先・予定時刻・担当者をホワイトボードやグループウェアに掲示。

単独訪問の安全対策としてチェックイン・チェックアウト時刻、緊急連絡先、位置情報共有のルールを確認し出発。

訪問計画(1日のルートと優先度)の立て方
– 大枠は「計画書と指示書」に基づく
– 利用者ごとの訪問看護計画書(看護目標・頻度・実施内容)と、主治医の訪問看護指示書(医療処置・指示期間・緊急時対応方針)が基本。

新規・変更はサービス担当者会議や医師と連携して反映します。

– 当日の制約条件の整理
– 時間依存性 インスリン直前の血糖測定、排便コントロール、創部処置のタイミング、輸液の交換時刻、人工呼吸器・吸引の観察等。

– 同時並行サービス ヘルパー、デイサービス、リハ(PT/OT/ST)、配食、訪問診療、訪問薬剤。

重複や干渉が起きないよう時間帯を調整。

– 家族・介護者の在宅時間、鍵の受け渡し、ペット対策、エレベータなし高層階など環境要因。

– 医療的リスク 退院直後、終末期、特別訪問看護指示書期間中、頻回モニタリングが必要なケース。

– 優先度と順序決定のロジック
– 生命・機能に直結する処置(気道・呼吸、循環、輸液、重度創傷)は高優先。

– 終末期・疼痛調整・急性変動時は前倒しで対応。

– 感染対策の観点で、一般的には清潔度の高い処置や易感染者を前に、発熱者・耐性菌保菌者・下痢症状のある方は後ろに配置。

訪問間の手指衛生・器具消毒・バッグの区画化を徹底。

– 地理的クラスター化と順路最適化で移動時間を最小化。

渋滞時間帯を避け、近接訪問を連続させます。

– 看護師のスキル・相性・継続性を考慮。

褥瘡・ストーマはWOC経験者、小児や人工呼吸器は経験者を優先配置。

継続的ラポールも重視。

– 所要時間とバッファ設計
– 一訪問の標準時間(例 30~60分)に、移動時間と記録時間(10~15分)を加味。

午前・午後それぞれに予備枠を1件分程度確保し、緊急対応や延長に備えます。

昼休憩に短時間の記録整理・電話連絡の時間を組み込みます。

– 具体的な計画手順(例)
1) 全利用者の「本日タスク」を抽出(EHRのダッシュボード、ホワイトボード)。

2) 時間固定の処置(輸液交換、インスリン、医師同行)を先にカレンダーに固定。

3) 高リスク利用者を優先スロットへ配置。

4) 地理的に近い訪問をブロック化し、移動の無駄を削減。

5) 感染対策順を反映して前後を微調整。

6) 各訪問に記録・移動バッファを付与し、予備枠を確保。

7) 家族・関連職種と最終確認の連絡。

鍵・集合玄関・駐車可否を確認。

8) 予定表をチーム共有し、急変時のバックアップ担当を明示。

– 変更への即応
– 入院・体調不良・急変・看取り・天候悪化などで当日変更は常態です。

キャンセル・前倒し・代替訪問の判断基準と連絡手順(利用者・家族・ケアマネ・医師・事務)を標準化。

電話指示は復唱・時刻・内容・指示医を記録し、可能な限り書面(FAX/電子)で追認を受けます。

– 訪問間の記録・報告
– 訪問ごとに記録を迅速に入力し、異常所見はSBARで医師・ケアマネへ報告。

写真は個人情報保護に配慮し、事業所規定に沿って撮影・保存。

日内の評価で次訪問の計画を微修正します。

実務を支えるチェックリスト(抜粋)
– 個人装備 名札、スマホ、予備充電、雨具、携帯用手指消毒剤、アイソレーションキット
– 計測機器 血圧計(成人・細腕対応カフ)、パルスオキシメータ、体温計、血糖測定器、スケールテープ
– 処置物品 滅菌物、創傷材、固定材、カテーテル類、ストーマ用品、吸引用品、陰圧閉鎖療法資材(必要時)
– 書類 訪問看護計画書写し、指示書要点、同意書、緊急連絡先、事故報告書様式
– 廃棄 シャープスコンテナ、感染性廃棄物袋、ラベル
– 安全 ヘッドライト、使い捨て手袋多サイズ、予備マスク、アルコール綿

なぜこの流れ・組み立てになるのか(根拠)
– 看護過程・トリアージの原則
– 訪問看護も看護過程(アセスメント→診断→計画→実施→評価)に則ります。

優先度は「生命に直結する問題」「時間制約の強い処置」「転帰改善に寄与する介入」の順に高くなるという臨床判断学の標準的原理が根拠です。

– 訪問看護計画書・医師の指示書の必要性
– 日本の制度では、訪問看護は主治医の訪問看護指示書に基づき実施し、利用者ごとに訪問看護計画書を作成・説明・同意を得ることが求められます。

急性増悪等に対する特別訪問看護指示書は原則14日間とされ、頻回訪問の根拠となります。

一般の指示書は通常6か月を上限に更新しながら運用されます(制度上の一般的取り扱い)。

– 感染対策(標準予防策・経路別予防策)
– すべての人の血液・体液・分泌物は感染性があるという前提での標準予防策、必要に応じた接触・飛沫・空気予防策の適用、清潔から不潔への作業順序、手指衛生の5つのタイミング等は、厚生労働省や日本環境感染学会等のガイドラインに沿うものです。

訪問順を「清潔→汚染リスク高」にするのも交差感染低減の実務的根拠があります。

– 個人情報保護・情報セキュリティ
– 個人情報保護法および医療・介護分野のガイドラインに基づき、最小限の情報持出・端末の暗号化・アクセス制御・持出記録・紛失時の報告体制が求められます。

屋外での通話・記録時の秘匿も義務づけられています。

– 訪問記録・報告義務
– 医療保険・介護保険の算定要件として、訪問看護記録や報告書の整備・保存が必要です。

記録は時系列性、客観性、再現性を満たし、指示の受領・内服・処置・教育・評価・次回計画を含むことが求められます。

– 労働安全・単独勤務のリスク管理
– 労働安全衛生の観点から、単独訪問時の危険予知、チェックイン・アウト、暴力・ハラスメント対策、交通安全教育、気象災害時の行動基準等の整備は事業者の安全配慮義務の一部です。

– 多職種連携と地域包括ケアの枠組み
– 在宅医療・介護は多職種協働が前提。

サービス担当者会議、退院支援カンファレンス、訪問診療・薬剤師・ケアマネとの情報共有は、地域包括ケアの政策的枠組みによって根拠づけられ、ケアの継続性とアウトカム改善につながります。

– 計画の地理最適化・バッファの設定
– 地理的クラスター化は移動時間を短縮し、非生産的時間を減らす運用改善の基本手法です。

医療では不確実性が高いため、一定の予備枠を持つ方が全体の遅延とキャンセル連鎖を防ぎ、結果として満足度と質を高めるという運用上のエビデンスが蓄積しています。

実践を安定させるコツ
– 前日までに翌日の固定タスクと物品を7~8割方確定し、朝は変動部分の調整に集中する。

– 30分単位のブロックで訪問・移動・記録を配置し、1ブロック分の予備枠を午前・午後に確保。

– 感染リスクと処置難易度のヒートマップを作り、週次で担当者配置を見直す。

– SBARで報告・相談を標準化し、電話指示は復唱・記録・書面追認の三点セットを徹底。

– 訪問終了直後に90秒だけでも重要所見をメモし、当日中に正式記録へ転記。

記憶のフレッシュなうちに入力する。

– 週1回のミニカンファで「遅延要因」「当日キャンセル率」「移動時間比率」を見える化し、改善を回す。

簡単な朝のタイムライン例(事業所830始業の場合)
– 830 出勤・着替え・体調自己チェック、端末起動
– 835 物品・機器点検、バッグパッキング、車両確認
– 845 朝ミーティング(申し送り、優先度決定、バックアップ体制確認)
– 900 訪問順・連絡先の最終確認、必要な事前電話
– 910 出発(移動中に到着予定を安全な方法で共有)

まとめ
– 朝の準備は「自他の安全を確保し、必要物品と情報を整える」ことから始めます。

具体的には体調・身だしなみ、感染対策、機器・物品・薬剤、移動手段、情報セキュリティ、申し送りを順に確認します。

– 訪問計画は「計画書と医師指示」を土台に、臨床的優先度、時間制約、地理最適化、感染対策順序、スキル配置、所要時間とバッファ、安全管理を組み合わせて作成し、当日の変動に即応できる柔軟性を持たせます。

– これらの流れは、看護過程、標準予防策、制度上の記録・指示書要件、個人情報保護、労働安全、多職種連携といった根拠に支えられています。

事業所の規模や対象(小児・精神・難病・終末期)によって細部は異なりますが、上記の考え方を軸に標準手順書(SOP)を整備し、チームで継続的に改善していくことが、質と安全、そして働きやすさにつながります。

訪問先での観察・ケアはどの順序で何を行うのか?

ご質問の「訪問先での観察・ケアはどの順序で何を行うのか?」について、訪問看護の現場で一般的に用いられる優先順位付けの考え方と、具体的な流れ、根拠をまとめてお伝えします。

あくまで標準的な枠組みですので、個々の利用者の状態、計画書(訪問看護計画書・主治医指示書)、ご本人や家族の希望、環境条件に応じて柔軟に調整してください。

1) 基本原則(順序づけの考え方)
– 危険の除去と安全確保を最優先 生命に関わる兆候(気道・呼吸・循環の急変リスク)と環境安全(転倒・火災・窒息・配線)を最初に確認する。

– ABCDE一次評価→系統的観察→問題焦点型評価 緊急性→全体像→個別課題の順で抜け漏れを防ぐ。

– 清潔から不潔へ、低侵襲から高侵襲へ、上から下へ(頭頂から足先へ) 感染対策と効率化の原則。

– 疼痛・不安の緩和を先行 処置や移動の前に痛みや不安を軽減し協働性を高める。

– 事前合意・説明・同意(インフォームドコンセント) 何を・なぜ・どの順で行うかをご本人と共有。

– 実施前後の評価(Before/After)と記録・報告 介入の効果と次回計画につなげる。

2) 訪問到着時〜導入
– 挨拶・本人確認・体調の第一印象把握(顔色、呼吸様式、会話の様子、姿勢、応答性)。

– 手指衛生・環境のゾーニング(清潔物品の置き場、廃棄物動線の確認)。

– 直近の変化の聴取 昨夜の睡眠、食事・水分、疼痛、排泄、転倒・発熱・救急受診の有無、家族からの気になる点。

根拠 初期観察とラポール形成は、緊急リスクの早期発見と協力関係構築につながる(看護過程、一次評価の概念)。

3) 一次評価(ABCDE)とバイタルサイン
– A 気道 嗄声、いびき様呼吸、分泌物、吸引の必要性。

– B 呼吸 呼吸数・リズム・努力呼吸、SpO2、胸郭の動き、使用酸素の流量・装着状態。

– C 循環 意識レベルの変化、皮膚色・冷感、脈拍数と規則性、浮腫、出血・脱水サイン、血圧。

– D 意識・神経 JCS/GCS、瞳孔、麻痺・ふらつき、新規の頭痛/けいれん。

– E 体温・曝露 体温、皮疹・褥瘡・創の有無、疼痛部位、外観の異常。

測定の小技と順序のポイント
– まず安静座位または楽な体位を整え、SpO2・呼吸数→脈拍→血圧→体温の順で測ると、動作による値の変動を抑えやすい。

– 在宅酸素は安易に流量変更せず、SpO2・呼吸状態で評価し必要時は指示書に従う。

– 血圧はシャント側・点滴側を避け、適正カフで同条件測定。

根拠 一次評価(ABCDE)は国際的な救急・看護評価の標準。

バイタルは測定前の安静保持が精度を上げる。

酸素療法は過剰投与のリスク(CO2貯留など)に留意。

4) 系統的アセスメント(頭から足先、生活全体)
– 呼吸器 咳・痰、体位での変化、吸引頻度、呼吸リハの実施状況。

– 循環器 労作時症状、胸痛・動悸、体重変動、浮腫、塩分・水分管理。

– 代謝・内分泌 血糖自己測定値、低血糖・高血糖症状、インスリン手技の確認。

– 神経・精神 睡眠、せん妄兆候、抑うつ・不安、服薬アドヒアランス。

– 消化・栄養 食思、嚥下状況、口腔内、便通、ストーマ管理。

– 泌尿器 排尿パターン、尿混濁・臭気、留置カテーテルの固定・閉鎖系維持。

– 皮膚 発赤・びらん、褥瘡スコア(Braden等)、創傷の色調・滲出・疼痛。

– ADL/IADL 移動、移乗、入浴、更衣、服薬管理、家事、見守りの要否。

– 環境・安全 転倒リスク(段差・コード・照明)、火気と在宅酸素、衛生設備、福祉用具適合。

– 薬剤 残薬、相互作用が疑われる症状、処方変更の確認、ヒヤリ・ハットの有無。

根拠 ヘッド・トゥ・トウと機能的健康パターンに基づく全人的アセスメントは抜け漏れを防ぎ、予防的介入(褥瘡・誤嚥性肺炎・転倒)に直結。

5) ケアの優先順位決定と説明
– 生命危機や急性悪化が疑われる所見があれば即介入・連絡。

– 次に疼痛・呼吸困難など苦痛の緩和。

– 感染リスクの高い処置(創・カテーテル等)は計画的に、無菌/清潔操作を担保。

– 生活課題(清潔・排泄・栄養・服薬・リハ)を本人の目標に沿って配列。

– 本日の実施項目と順序を本人・家族に短く共有(同意)。

根拠 看護過程(アセスメント→診断→計画→実施→評価)に基づく優先順位づけ。

患者参加はアドヒアランスとアウトカム改善に資する。

6) ケア実施の順序(代表例と原則)
原則
– 清潔から不潔へ 口腔・スキンケア→リハ→排泄支援→創処置・吸引・カテーテル、の順が一般的。

– 低侵襲から高侵襲へ バイタル測定・観察→清潔ケア→処置の順。

– 前処置 疼痛コントロール、前投薬、保清の温度・環境調整。

– 体位・動線は一筆書きで 無駄な体位変換を減らし、疲労と転倒リスクを低減。

具体的な流れ例(60分訪問の一例)
– 0–5分 挨拶・初期観察(ABC)、手指衛生、体位調整。

– 5–12分 バイタル測定・疼痛スケール・今日の希望確認。

– 12–20分 清潔ケア(顔拭き・手浴・口腔ケア・保湿)。

口腔は義歯清掃・舌苔除去・保湿まで。

– 20–30分 排泄支援・陰部清潔、失禁関連皮膚障害の予防ケア。

必要時に体位変換と圧抜き。

– 30–40分 日常リハ(関節可動域訓練、坐位保持、立ち上がり・歩行練習)。

バイタル再チェック。

– 40–50分 創傷処置(評価→洗浄→ドレッシング)、気切・吸引、留置カテーテル確認など。

閉鎖系維持と無菌操作を厳守。

– 50–55分 服薬確認・自己管理(血糖測定、吸入手技、フットケア)指導・家族相談。

– 55–60分 後片付け・廃棄物処理、再評価(症状・バイタル・苦痛)、次回計画の共有、記録の要点確認。

根拠 
– 口腔ケアは誤嚥性肺炎の予防に有効(国内RCT等)。

食前後の適切なタイミング設定が重要。

– 清潔から不潔/無菌・清潔操作の維持は感染率低下に直結(標準予防策、WHO手指衛生)。

– リハはバイタル安定時に、短時間・反復で行うと安全性と効果が高い。

– 創傷はTIME概念(組織・感染/炎症・滲出・辺縁)で評価し、適切なドレッシング選択を行うのが標準。

7) 環境整備・安全確認のポイント(随時)
– 転倒要因の除去(散乱物、滑りやすいマット、段差、コード配線)。

– 在宅酸素と火気の分離、加湿器・水回りの衛生。

– ベッド・手すり・歩行補助具の高さや設置位置の微調整。

– 医療廃棄物の分別・持ち帰り、家族への衛生教育。

根拠 転倒・火災・院内感染ならぬ「家内感染」の予防は在宅療養の重要アウトカム(再入院・傷害)の主要因子に直結。

8) 教育・自己管理支援
– ティーチバック法で理解度確認(例 吸入器の手順、低血糖時の対応)。

– 服薬スケジュールの簡素化やピルボックス提案、残薬管理。

– 体重・血圧・SpO2の日誌化としきい値の共有(いつ連絡/受診か)。

根拠 自己効力感の向上と自己管理の定着は急性増悪と再入院の減少に関連。

ティーチバックは理解度の客観化に有効。

9) 評価・記録・連携
– 今日の目標達成度、介入効果(バイタル・症状・創の所見・疼痛スコア)をBefore/Afterで記録。

– 変化があればSBARで主治医・ケアマネへ迅速共有(緊急度に応じ電話→記録)。

– 次回の訪問目標・課題・準備物品を明確化。

根拠 標準化されたコミュニケーション(SBAR)は情報伝達の質と安全性を高める。

記録は法的要件とチーム連携の基盤。

10) 例外・柔軟な運用
– 緩和ケアでは苦痛緩和(痛み・呼吸困難・不安)を最優先し、ルーチン測定を必要最小限に。

– 小児・認知症では家族・本人の安心感を重視し、導入と説明に十分な時間を配分。

– 感染症状が強い場合は処置の順序を変更し、交差感染リスクを最小化(専用物品、最後に実施、徹底消毒)。

根拠 患者中心ケア・倫理原則(自律尊重・無危害・善行)と状況適応性。

11) 急変時の基準と対応
– SpO2の急低下、呼吸数の急変、収縮期血圧の大幅変動、意識変容、新規の麻痺・片側の脱力、黒色便・吐血、激しい胸痛などは即時連絡/救急要請。

– 在宅酸素・気切・人工呼吸器等では事前に緊急時連絡ルート・手順を本人・家族と共有。

根拠 早期警戒スコア(NEWS等)の概念。

時間依存性疾患(心筋梗塞・脳卒中・敗血症)は初動が予後を左右。

12) 参考となるガイドライン・根拠の出典(抜粋)
– 標準予防策と手指衛生 WHO「5 Moments for Hand Hygiene」、CDC標準予防策。

– 一次評価(ABCDE) 救急医療・看護の標準フレーム。

– 在宅療養における感染対策 厚生労働省・日本環境感染学会資料。

– 褥瘡予防・管理ガイドライン 日本褥瘡学会(体圧分散・保湿・体位変換の推奨)。

– 誤嚥性肺炎予防としての口腔ケア 国内研究(例 米山他、口腔ケア介入で肺炎発症率低下)。

– 創傷管理のTIME概念・ANTT(無菌的非接触法) 国際創傷治癒ガイダンス。

– 看護過程・SBAR・ティーチバック 日本看護協会の質改善・患者安全資料。

– 訪問看護の実務指針 日本看護協会「訪問看護業務指針」、各自治体の在宅療養ガイド。

まとめ
訪問先での観察・ケアの順序は、「安全確保とABC一次評価→バイタル・系統的観察→優先順位決定と説明→清潔から不潔、低侵襲から高侵襲の原則でケア実施→教育・環境調整→再評価・記録・連携」という流れが基本です。

根拠は、標準予防策・一次評価フレーム・各疾患/生活領域のガイドライン・看護過程に裏打ちされています。

これらの原則を土台に、利用者の価値観とその日の体調に合わせて順序や配分を柔軟に調整することが、訪問看護の質と安全性を高める最短路です。

家族対応や多職種との連携はどのように進めるのか?

以下は「訪問看護の1日の流れ」の中で、家族対応と多職種連携をどう進めるかの実務と、その根拠をまとめたものです。

実際の現場での運用イメージが湧くように、時間軸とプロセスで説明した上で、具体的な技法・書類・連絡の型、加算やガイドラインに触れます。

1日の流れの中での位置づけ
– 朝一(カンファ・準備)
– 前日までの記録と今日の訪問予定を確認し、主治医・ケアマネジャー(以下ケアマネ)からの連絡事項や急変情報を共有。

– 服薬変更、退院予定、看取り期移行など、多職種との確認が必要な項目を抽出し、連絡計画を立てる。

– 訪問中(家族対応の中心)
– ご本人だけでなく「家族をケアの対象」としてアセスメント。

介護負担、理解度、ケア手技、心理的負担、リスク(誤薬・転倒・虐待・経済的困難)を把握。

– その場での家族教育・スキルトレーニング、意思決定支援、緊急時連絡体制のリマインドを実施。

– 訪問直後〜午後(記録・報告・調整)
– SOAPで記録し、必要に応じてSBARで主治医・ケアマネ・薬剤師等へ即時報告。

– 定期カンファレンスの議題化、サービス担当者会議の招集提案。

– 終業前(チーム内共有と翌日準備)
– 注意対象(疼痛悪化、摂食低下、介護者の疲弊など)をチームで共有し、オンコール体制や明日の連携計画を整える。

家族対応をどう進めるか(実務の要点)
1) 事前合意と情報共有の基盤づくり
– 初回〜早期に、同意書を用いて「多職種間で必要な情報を共有すること」「緊急時の連絡や指示受けの方法」を家族に説明し、文書同意を得る(個人情報保護の観点)。

– ケアプラン・訪問看護計画書・主治医の訪問看護指示書の概要を家族にかみ砕いて説明し、「何を目標に、誰が、いつ、何をするか」を見える化。

2) 家族アセスメント(初回から継続)
– 介護力・理解度 服薬、排泄、体位交換、口腔ケア、清潔保持、栄養・水分摂取などの自立度と介護者の手技レベル。

– 介護負担・健康状態 Zarit 介護負担尺度等の簡便なスクリーニングや、睡眠・腰痛・通院状況を聴取。

– 生活資源 同居・近居の有無、レスパイト活用余地、経済状況、地域資源(デイ、短期入所、配食、福祉用具)。

– リスク 誤薬・転倒・誤嚥・低栄養・フレイル・虐待兆候・認知症BPSD・孤立。

3) 教育・スキルトレーニング
– Teach-back法(説明後に家族自身の言葉で要点を言い返してもらう)で理解度を確認。

– 具体的な手順書・チェックリストを渡し、段階的に委譲(例 創傷処置は「観察→部分的手技→全手技」へ)。

– 服薬は「1包化」「立て替え禁止・記録化」「週1回のピルボックスセット」を薬剤師と連携し導入。

– 感染対策は「標準予防策」「手指衛生のタイミング」「物品の保管・廃棄」を家庭環境に合わせて調整。

4) 心理社会的支援と意思決定支援
– 傾聴・共感・OARS(開かれた質問、肯定、反映、要約)を基本に、介護者の感情を受け止める。

– 葛藤や負担が強い場合、ケアマネと調整しレスパイト(ショートステイ、訪問介護の増量、デイの追加)を具体化。

– 目標の再設定(ACP) 本人の価値観、DNARの有無、どこで看取りたいか、家族の受け止めを定期的に確認。

5) 緊急時対応の整備
– 病状ごとに「観察ポイント」「閾値」「連絡先」「初期対応」をカード化(例 SpO2<90%で連絡、解熱薬可否、レスキューオピオイドの使い方)。

– 夜間・休日のオンコール体制の使い方を家族に繰り返しリマインド。

6) 記録と共有
– 家族から得た情報・教育内容・理解度・同意内容をSOAPで記録。

– 重要変化はSBARで主治医・ケアマネに速報。

例 S「夜間呼吸困難増強」B「COPD GOLD3、在宅酸素2L」A「SpO2 88%、使用手技に不安」R「気管支拡張薬追加検討と吸入手技再指導を希望」。

多職種連携をどう進めるか(要点と場面別)
1) 起点と回線の明確化
– 起点 医師の訪問看護指示書・ケアマネのケアプラン。

訪問看護は両者のハブとなる。

– 回線 定期(例 月1回)と臨時の連絡経路を定める。

電話+セキュアなICT(地域共有ツール、電子カルテ連携)を併用。

2) 定期カンファレンス・サービス担当者会議
– 目標、役割分担、リスク対策、緊急時フロー、退院後の短期・中期目標を合意。

– リハ、薬剤師、栄養士、歯科、福祉用具、訪問介護、通所、MSW、地域包括支援センターなど必要メンバーを招集。

3) 退院時連携
– 退院前カンファレンスに参加し、必要物品(在宅酸素、褥瘡用具、吸引器等)の手配、服薬セット、緊急時指示を退院前に整える。

– 病院看護師からの看護サマリー、リハサマリー、栄養サマリーを受領し、在宅版ケア計画へ落とし込む。

4) 症状・テーマ別の具体
– 服薬・ポリファーマシー 訪問薬剤師と「重複・相互作用・残薬」の三点を重点的に見直し、簡素化と一包化。

– 栄養・嚥下 管理栄養士・言語聴覚士と食形態・摂取エネルギー・嚥下訓練の計画を共有し、誤嚥リスクを評価。

– 皮膚・排泄 WOC看護師へ相談し、褥瘡予防の体位変換スケジュールとマットレス選定、スキンケアを統一。

– 認知症・BPSD 主治医・精神科・地域包括と連携し、非薬物療法(環境調整、日課づくり)と最小限の薬物治療を調整。

– 緩和ケア・看取り 訪問診療医とレスキューの指示、疼痛・呼吸困難のスケール化(NRS、RASS、dyspnea scale)、家族への事前説明を統一。

5) 急変・救急との接続
– SBARで即時報告→医師指示→必要なら救急要請。

搬送の可否は本人意思とACPに基づき、家族と迅速共有。

– 搬送後も病院と双方向連絡し、再入院防止に向けた調整を図る。

連携を支える書式・ツールと算定・制度のポイント
– 記録様式 SOAP(主観・客観・評価・計画)で記録し、報告はSBARで簡潔化。

緊急時にも通用する標準化が重要。

– 書類・同意 主治医の訪問看護指示書、訪問看護計画書、ケアプラン、情報共有同意書、ACPに関する意思表示の記録。

– ICT 地域連携パス、在宅医療・介護連携ICT(自治体や医師会のプラットフォーム)、セキュアメッセージングを活用。

– 報酬・加算の考え方(概要)
– 医療保険・介護保険いずれでも、主治医の指示やケアプランに基づく提供が原則。

– 退院時の共同指導、24時間対応体制、特別管理(在宅酸素、人工呼吸器、IVH等)、ターミナルケア、サービス担当者会議への参加など、多職種連携や在宅療養の要となる行為は診療・介護報酬で評価されている。

– これらの算定要件は「計画・記録・連携の実施」が前提で、質の高い情報共有が制度的にも求められる。

実例で見る進め方(簡略シナリオ)
– COPD+フレイルの方
– 訪問時に家族と一緒に呼吸法・排痰法を練習、パルスオキシメータの読み方をTeach-backで確認。

– 昼に薬剤師へSBARで吸入手技の再指導依頼、夕刻に主治医へLAMA/LABA増量の相談。

翌週にケアマネ主催でカンファ、栄養士同席で栄養補助食品導入。

– 終末期がんの方
– 朝のミーティングで夜間疼痛増悪を共有→訪問で家族へレスキュー投与のタイミングと副作用対策を再教育。

– 訪問後、主治医へSBARで疼痛コントロール再調整を依頼。

夕方にケアマネへ看取り体制の最終確認(夜間連絡先、必要物品)を共有。

根拠(法制度・ガイドライン・研究)
– 法制度・基盤
– 医師の指示に基づく訪問看護(保健師助産師看護師法、医療法の枠組み)と、ケアプランに基づく提供(介護保険法)が連携の土台。

主治医の訪問看護指示書、ケアマネの居宅サービス計画に沿ったサービス提供が求められる。

– 個人情報の取り扱いは個人情報保護法に基づき、関係者間の情報共有には利用目的の明確化と同意が前提。

– 地域包括ケアシステム(厚生労働省)は「医療・介護・予防・住まい・生活支援」の一体的提供を掲げ、在宅医療・介護連携推進事業で多職種連携カンファやICT整備を推進。

– ガイドライン・実務指針
– 日本看護協会・日本訪問看護財団等の訪問看護手引きは、初回アセスメントで家族を含む生活背景評価、継続的な多職種カンファレンス、ACPのプロセスを明記。

– 緩和ケアにおける家族支援はWHOや国内緩和ケアガイドラインで「家族もケアの対象」として教育・心理的支援・喪失支援まで含めることが推奨。

– 患者安全の文脈では、SBARやTeach-backはAHRQやWHOの推奨する標準化されたコミュニケーション手法として有効性が確認されている。

– 研究的根拠(効果)
– 多職種連携を伴う在宅ケアは、心不全など慢性疾患で再入院率低下やQOL改善に資することがメタ解析・コクランレビュー等で示されている。

– 介護者支援プログラム(教育・カウンセリング・レスパイト)は介護負担感や抑うつの軽減に寄与することが国内外の研究で報告。

– 退院前カンファレンスや退院支援の強化は在宅移行の円滑化と早期再入院の抑制に関連する知見が多数。

現場でのコツ(つまずきを減らすために)
– 目標共有を「1枚」に 本人・家族が冷蔵庫に貼れるレベルで、目標・緊急連絡先・観察ポイントを可視化。

– 小さな成功体験を積む 家族に任せる手技を細分化し、成功をフィードバック。

– 連絡は「早め・短く・要点的に」 SBARで要点を30〜60秒で伝える習慣化。

– 負担が高い家族は「サービス追加」より「役割再設計」 訪問介護・デイ・配食・福祉用具で負担の質を変える。

– 記録は「次の行動につながる文」に 評価の後に必ず具体的な次の一手(誰が、いつ、何を)を書く。

まとめ
– 家族対応は、アセスメント→教育・支援→意思決定支援→緊急時体制→記録・共有のサイクルで回します。

Teach-backとOARSで理解と感情を支え、負担軽減と安全性を両立させます。

– 多職種連携は、主治医指示書とケアプランを軸に、定期カンファとSBARで素早く正確に情報を循環させます。

テーマ別に専門職の力を引き出し、在宅療養の質と継続性を高めます。

– これらは、法制度・ガイドライン・研究で裏打ちされ、診療・介護報酬上も評価される実務です。

日々の「標準化されたコミュニケーション」と「記録・同意の丁寧さ」が成功の鍵です。

参考(主な根拠の出典例)
– 厚生労働省 地域包括ケアシステム、在宅医療・介護連携推進事業関連資料
– 介護保険法関連通知、訪問看護に関する診療・介護報酬の算定要件
– 日本看護協会・日本訪問看護財団 訪問看護の手引き・ガイド
– WHO, AHRQ SBAR・Teach-back等のコミュニケーション推奨資料
– Cochrane reviews/国内研究 多職種在宅ケアの再入院抑制、介護者支援の効果に関するレビュー

必要であれば、実際に使えるSBARテンプレートや家族向け教育シート例もお送りします。

移動や感染対策、時間管理はどう工夫しているのか?

以下は、訪問看護の1日の流れを念頭に、移動・感染対策・時間管理をどう工夫しているかを実践レベルでまとめ、その根拠も併せて整理したものです。

現場の運用に落とし込みやすいよう、準備→訪問中→終了後の順で記します。

1日の大まかな流れの例
– 前日~当日朝 ルート最適化、物品補充、感染リスク評価、チーム朝会
– 午前~午後 訪問(必要に応じて電話トリアージや緊急訪問を挿入)
– 訪問合間 移動、記録、物品補充、主治医やケアマネとの連絡
– 終業前 記録仕上げ、情報共有、翌日準備、インシデント確認

移動の工夫(安全・効率・確実性)
– 地理的クラスタリングとルート最適化
– 同一エリアの利用者を時間帯でまとめる(例 午前は北ブロック、午後は南ブロック)。

渋滞傾向、学校行事、降雨・降雪予報を事前に加味。

– 地図アプリの到着予測を使い、訪問間に短いバッファ(10~15分)を挿入。

遅延が出ても後続に連鎖しにくい。

– 交通手段の選定と季節対応
– 都市部 自転車・原付+公共交通の併用。

防水バッグ、レインウェア、夏の熱中症対策(経口補水、冷却材)を標準装備。

– 積雪地域・郊外 自動車はスタッドレス、チェーン、非常セット(ブースターケーブル、毛布、飲料)。

事前の車両点検と燃料管理。

– 訪問バッグの軽量化と積載動線
– 物品は標準セット+患者別追加品の二層構造。

標準セットは週次見直しで重量と重複を削減。

– 車や自転車カゴの定位置化で「探す時間」をゼロに。

頻用物品は取り出しやすい手前ポケットに固定。

– 安全確保
– 暗所・雨天時は玄関周辺の足元確認、段差やペットの動きに注意。

単独訪問が不安なケースは事前連絡+同乗訪問や近隣待機。

– 運転のヒヤリハットを日報で共有し、週次で再発防止策を更新(駐車位置のルール、乗降の手順など)。

感染対策の工夫(在宅特有の制約に適合)
– 標準予防策の徹底(すべての利用者を潜在的保菌者とみなす)
– 手指衛生 玄関前または入室直後に速乾性手指消毒剤(エタノール70~80%相当)で擦式衛生。

目に見える汚れは石けんと流水。

– 手袋・マスク ケア内容に応じて手袋、サージカルマスクを基本。

血液・体液飛散の恐れがある場合はフェイスシールドやエプロンを追加。

– 聴診器・血圧計などは都度清拭(アルコール系、対象材質の適合を確認)。

床に直置きしない。

– バッグテクニック(清潔域の確保)
– バッグ直置き禁止。

専用シートまたは使い捨てペーパーの上に置く。

清潔域(未使用物品)と不潔域(使用後物品・廃棄物)を物理的に分離。

– 使用物品は必要最小限のみ取り出し、使い回しリスクを減らす。

終了時は外装を消毒し、廃棄物は密閉。

– 伝播経路別予防策の追加
– 接触予防(MRSA、褥瘡感染など) 手袋・エプロン、環境高頻度接触面の清拭。

訪問を日程の後半に配置し交差汚染を抑制。

– 飛沫予防(インフル、COVID-19など) サージカルマスク、利用者・家族にもマスク着用を推奨。

必要時の換気。

– 空気予防(結核、麻しん、水痘などが疑われる場合) N95等の適合マスクと換気の確保。

原則は主治医と調整のうえ対応可否を判断し、不要不急の処置は避ける。

– ノロ・C. difficileなどの特殊対応
– アルコール抵抗性病原体では石けん・流水の手洗いを優先し、塩素系(次亜塩素酸ナトリウム)による環境清拭を併用。

– 物品・廃棄物・鋭利物管理
– 鋭利物は耐穿刺容器に回収しステーションへ持ち帰り。

一般廃棄物と医療廃棄物の区分を地域ルールに適合させる。

– 吸引・在宅酸素・気管切開のケアは、手順書に基づく清潔操作と器材再生処理(洗浄→消毒→乾燥→保管)をルーチン化。

– 職員側の健康管理
– ワクチン(インフル、COVID-19、B型肝炎など)接種、定期的な健康観察。

発熱・消化器症状時の勤務判断基準を明文化。

– 利用者・家族への教育
– 手指衛生、咳エチケット、換気、清拭のポイントを簡潔なリーフで繰り返し説明。

家のレイアウトに応じて実施可能な範囲を共同で設計。

時間管理の工夫(遅延・抜け漏れ・燃え尽きを防ぐ)
– 前日~朝の段取り
– 訪問ごとの標準所要時間(例 創傷処置45–60分、入浴介助60–90分、採血20–30分)と移動時間を見積り、1件あたり10–15分のバッファを付与。

– 医師指示書や前回記録の要点をテンプレート化し、注意点だけを朝会で共有。

感染リスクや急変リスクの高い人は上位にフラグ付け。

– 優先順位づけと順番の最適化
– 医療的緊急度>感染対策上の並び(高リスクは後半へ)>地理的まとまりの順に調整。

緊急依頼の挿入枠を午前・午後に1枠ずつ確保。

– 訪問中のマイクロマネジメント
– 目標設定→ケア→指導→記録の各フェーズにタイムボックスを設定。

記録は現場で7割以上完結(音声入力や定型文活用)。

– 物品はチェックリストで取り出し・片付けを可視化し、忘れ物・紛失を防止。

– 訪問間の切替え
– 移動直前に2分間の振り返り(次訪問の感染対策要件、必要物品、到着予定時刻の再確認)。

遅延見込みが10分超なら電話連絡。

– 終業前の後処理
– 5分単位の実績工数と遅延理由を簡易に記録。

翌日のルート・所要時間見直しに反映。

消耗品はカンバン方式(残数閾値で自動補充)で欠品ゼロを維持。

– 働き方のガードレール
– 1日訪問件数の上限、終業時刻のハードストップ、週1回のミニカンファで負荷調整。

繁忙期は電話モニタリングやオンライン指導を一部代替。

根拠(ガイドライン・研究・運用知見)
– ガイドライン・公的推奨
– 標準予防策/経路別予防策 WHO、CDC、日本環境感染学会が共通に推奨。

手指衛生(アルコール70–80%)、手袋・マスクの適正使用、曝露後対応、器材の清拭・消毒、廃棄物管理などは国際的・国内的に整合。

– 在宅医療・訪問看護に特化した感染対策 日本環境感染学会や日本看護協会、日本訪問看護財団等が「在宅療養の感染対策」「訪問看護の感染対策」の手引きを提示。

バッグテクニック、清潔域の確保、訪問順序の工夫、家族教育の重要性が明記されている。

– COVID-19関連 厚生労働省の通知・事務連絡や学会声明で、症状スクリーニング、マスク着用、換気、飛沫・接触予防策強化、在宅でのPPEの適正使用が推奨。

– 研究的根拠・実務データ
– ルート最適化・地理的クラスタリングは、在宅医療・介護の「訪問ルーティング問題」を扱う研究で移動時間の短縮と遅延の減少に寄与することが示唆。

実務でも訪問件数あたりの移動時間が大きくなるとケア時間や記録時間が圧迫されるため、クラスタリング+バッファ付与が生産性と安全性の両立に有効。

– タイムスタディでは、訪問看護の勤務時間の一定割合を移動・準備・記録が占め、現場完結の記録と定型化(テンプレート、チェックリスト、音声入力)が残業削減に寄与する傾向が報告されている。

– 感染対策については、標準予防策の遵守(手指衛生、PPE適正使用、使用器材の清拭)が医療関連感染の発生率を低下させることは国内外のエビデンスが確立。

ノロやC. difficileでの石けん・流水優先、空気感染疾患でのN95着用・換気の有効性も一貫した知見。

– 運用の実証知見(ケアの質と安全)
– 訪問順序で「感染リスク高→日程後半」の原則は、交差汚染リスク低減のために多くの在宅系マニュアルが推奨。

緊急枠の事前確保は、突発依頼の受け皿を確保しつつ全体遅延を最小化するオペレーション手法として有効。

– カンバン方式の物品管理や標準キッティングは、取り違えや欠品によるケア中断リスクを下げ、訪問時間のばらつきを縮小。

実践のポイント(短縮版)
– ルートはクラスタリング+バッファ10–15分。

緊急枠を午前・午後に確保。

– バッグは直置き禁止、清潔域と不潔域を分ける。

持ち込みは必要最小限。

– 標準予防策をベースに、接触・飛沫・空気の各予防策を上乗せ。

高リスク訪問は後半に。

– 記録は現場で7割完結。

テンプレ・音声入力・チェックリストで時短。

– 終業前5–10分で翌日の所要時間と物品を再見積り。

欠品ゼロ運用。

– ワクチン・健康管理・事前連絡で職員と利用者双方の安全を確保。

最後に
在宅は環境の多様性が高く、万能の正解はありません。

上記の工夫は、標準予防策・経路別予防策というエビデンスに裏づけられた原則を軸に、移動・時間という現場制約に合わせて「見える化」「定型化」「簡素化」することが要点です。

自ステーションの地理条件・患者属性・交通事情に合わせ、週次の小さな振り返りで改善を継続すると、遅延とインシデントの双方が減り、ケアの質と働きやすさが両立します。

突発対応と終業時の記録・報告・振り返りはどう行うのか?

以下は、訪問看護の「突発対応」と「終業時の記録・報告・振り返り」を、現場運用の具体と法令・ガイドラインの根拠の両面からまとめたものです。

事業所規模や地域の連携体制で細部は変わりますが、標準的な考え方・手順として参考にしてください。

突発対応(急変・機器トラブル・転倒等)の基本方針

– 目的
– 利用者の安全確保と重症化予防
– 安定した在宅継続の支援(不要な救急搬送の回避)
– 関係職種との迅速な連携と継続性の担保
– 体制
– 24時間連絡体制の明確化(オンコール、バックアップ、連絡先の書面交付)
– トリアージ基準とエスカレーション基準の共有(赤=即救急要請、橙=早期受診・緊急訪問、黄=当日内訪問、緑=計画内で対応)
– 標準的コミュニケーション手順(SBARなど)と指示受け記録の徹底
– 物品・機器の緊急持ち出しセットの整備(酸素関連、吸引、輸液トラブル対応、褥瘡・出血対応、AED所在の把握 など)

突発対応の具体フロー
(1) 受電・一次評価(電話)

– 安全確認 意識・呼吸・循環(ABC)、出血、胸痛、麻痺、けいれん、SpO2の有無などを家族・本人から聴取
– 切迫度判断 以下があれば原則119番を優先し、同時に主治医へ情報連絡
– 意識障害、呼吸困難・SpO2低下、重度胸痛・麻痺の出現、大量出血、長時間のけいれん、新規の強い頭痛・転倒後の頭部打撲など
– 救急要請に至らない場合
– 看護師が緊急訪問の要否と到着見込み時間を提示
– 可能な応急処置を電話で指示(体位、安静、内服、機器再起動など)
– 主治医への連絡準備(現状、既往、アレルギー、最新バイタル、内服、DNARの有無などを整理)

(2) 訪問準備・到着まで
– 情報収集 直近の記録、主治医指示書、ケアプラン、リスク情報
– 物品準備 事象に応じた緊急物品(点滴・ポートトラブル対応具、ストマ・胃瘻関連、褥瘡処置、在宅酸素・吸引関連)
– ルート再編 当日のルート調整と代替訪問者の手配(管理者と即時調整)

(3) 現地での評価・介入
– 初期評価 時間・場所・関係者の安全確認→意識・呼吸・循環・体温・痛み・皮膚・神経症状・出血量・機器アラーム
– 介入範囲 事前の主治医指示書および口頭指示の範囲で実施(疼痛・発熱時対応、褥瘡・皮膚トラブルの初期処置、機器トラブル復旧、誤薬対応の初期評価など)
– エスカレーション 
– 医師と電話連絡(SBARで要点伝達)
– 医師の指示受け(薬剤変更、臨時点滴、臨時採血の調整、翌日受診の指示など)
– 必要時は救急搬送同乗や受け入れ情報の共有
– 家族支援 状況説明、次に起きやすい症状と対処、夜間の連絡基準、安心のための見通し提示
– 次回計画 臨時訪問の追加、モニタリング間隔、デイリーコールなどを合意

(4) 事後の連絡・共有
– 主治医へ速報(口頭→電子または書面で追補)、ケアマネジャーへ連絡、必要に応じて訪問診療・薬局・ヘルパー・リハ職へ共有
– 24時間対応体制加算・緊急時訪問の算定要件に合致するか管理者が確認

(5) 記録(タイムライン重視)
– 受電時刻、内容、発症時刻、訪問決定時刻、出発・到着・介入・終了・連絡時刻
– 観察所見(数値と所見)、実施ケア、使用物品、医師指示の有無と内容、家族教育、合意事項
– トリアージ判断の根拠、エスカレーション先と結果
– リスク(再発可能性・危険因子)と対策
– 遅延記録の場合は理由と作成時刻を明記

終業時の記録・報告・振り返り
(1) 記録の完成・点検

– 訪問看護記録(様式例 記録書I・II)、計画書の変更点、医師・ケアマネ向け報告書のドラフト
– 指示受け記録(誰から、いつ、何を、復唱確認、期限)、電話指示は必ず文章化
– 事故・ヒヤリハットはインシデントレポートへ別途入力(事実ベースで)
– 電子記録 入力漏れ・重複・誤記の相互チェック、監査ログを残し訂正は履歴が残る方法で

(2) 申し送り・共有
– 当直/オンコールへの引き継ぎ 高リスク利用者リスト、今夜の連絡基準、緊急連絡先、医師指示の要点
– 翌日の訪問ルート最終確認、物品・薬剤の準備依頼
– 多職種共有(必要に応じて) ケアマネへショートサマリー、ヘルパーへ観察点、薬局へ残薬・副作用情報

(3) 振り返り(短時間カンファレンス)
– 形式 5–15分のデイリーハドルまたはミニカンファレンス
– 進め方 KPT(Keep/Problem/Try)やYWT(やったこと/わかったこと/次にやること)、SBARでケース要約
– 観点 
– 医療安全 トリアージの妥当性、連絡タイミング、二重チェックの有無
– 継続ケア 計画の見直し、再発予防の教育、夜間連絡基準の明確化
– 業務改善 ルート再編の工夫、物品の標準セット再構築、テンプレート修正
– 結果の見える化 アクションアイテムをResponsible/Deadline付きで記録

(4) 実績・請求・保管
– 実績入力(介護 提供票・実績記録票、医療 訪問看護療養費・加算の根拠記録)
– 算定要件の確認(24時間対応体制加算、緊急時訪問、特別管理加算 等は記録要件あり)
– 記録保存と個人情報保護(端末のログアウト、紙媒体の施錠保管)

(5) 物品・感染対策・端末
– 物品補充、使用期限チェック、消毒・清掃、車両管理
– 端末のセキュリティ(紛失防止、リモートワイプ設定確認)

根拠(法令・ガイドライン・標準)

– 24時間連絡体制・運営基準
– 介護保険の指定居宅サービス事業の運営基準(厚生労働省令)および訪問看護ステーションの人員・運営基準で、常時連絡体制の確保や記録の整備が求められます。

24時間対応体制加算を算定する場合は契約・計画・実績記録・連絡体制の整備が必須。

– 医療保険の訪問看護
– 訪問看護療養費算定要件(診療報酬)に基づき、主治医の訪問看護指示書に沿った提供と、報告書の提出(月1回以上、急変時は適宜)が求められます。

口頭指示は記録化が必要。

– 看護記録の原則
– 日本看護協会「看護記録に関するガイドライン」等に基づき、客観性・時系列・即時性・完全性・追記方法(訂正履歴)・署名責任の原則が示されています。

SBARなど標準化された伝達も推奨。

– 個人情報・情報セキュリティ
– 個人情報保護法、医療情報システムの安全管理ガイドライン(厚労省)に基づき、アクセス権限管理、端末の紛失対策、持ち出し記録、暗号化、ログ管理などが必要。

– 医療安全・事故報告
– 医療安全管理指針の整備が求められ(医療法・各種通知)、インシデント報告に基づく再発防止のPDCAが推奨。

訪問看護でもヒヤリハット収集とカンファレンスでの共有が実務標準。

– 記録保存期間の目安
– 介護保険の運営基準では記録の保存(原則2年間)が求められるとされる一方、診療報酬・介護報酬の請求根拠や税務上の観点から5~7年程度の保管を推奨する実務が一般的。

自治体の指導要綱に従うこと。

– BCP(事業継続計画)
– 介護事業所には感染症・災害に関するBCP策定が義務化され、非常時の連絡・記録・訪問の優先順位づけの仕組み整備が必要(厚労省通知)。

突発対応手順はBCPにも反映。

実務のコツ(よくある課題と解決)

– 電話トリアージの質を平準化
– 質問プロトコルと観察ポイントのチェックリストを台紙化。

SBARメモ欄を電話横に常備。

– 時刻の記録
– 受電・決定・出発・到着・連絡のタイムスタンプを必須項目に。

電子記録なら自動記録+編集不可の監査ログを活用。

– 指示受けの安全性
– 復唱の定型化(Read-back)。

「誰から」「いつ」「何を」+期限をテンプレート化。

– オンコール疲労対策
– ローテーション、公平な負担、代休、メンタルチェック、家族支援の教育資材の充実で夜間コールの質を上げる。

– 二重対応の防止
– グループチャットや電子カルテの「緊急フラグ」で一元管理。

一次連絡窓口を一本化。

– 物品標準セット
– ケース別(発熱・呼吸・褥瘡・点滴・在宅機器)で色分けパック。

返却後は補充チェックリストでリセット。

代表的な突発シナリオの要点

– 発熱(がん緩和ケア、在宅療養)
– 38℃、悪寒戦慄、SpO2低下→酸素・水分評価、感染源スクリーニング、医師と解熱・抗菌薬相談、救急適応の判断(意識低下・呼吸不全・敗血症疑い)
– 転倒・頭部打撲
– 意識、嘔吐、神経徴候、抗凝固薬内服の有無で救急要請の閾値を低く設定。

皮膚損傷の止血・感染予防、環境調整。

– 在宅酸素・人工呼吸器アラーム
– 接続・電源・設定・カニューラ詰まりチェック。

SpO2と呼吸仕事量で救急判断。

バックアップ機器切替手順の再教育。

– CVC/ポート・胃瘻トラブル
– 発赤・疼痛・排液性状の評価、無菌操作の徹底、自己抜去時の止血・感染予防、医師へ迅速連絡。

まとめ
– 突発対応は「安全最優先のトリアージ→迅速なエスカレーション→標準化した記録と共有」の流れを徹底することが要です。

– 終業時は「記録の完全性の担保→申し送りと多職種連携→短時間でも振り返り→実績・物品・セキュリティの締め」を習慣化すると、翌日のリスクが大きく低減します。

– これらの運用は、訪問看護の運営基準、診療・介護報酬の算定要件、日本看護協会の記録ガイドライン、個人情報保護・医療安全の各指針に整合する形で設計すると、法令順守と医療安全、ケアの継続性を同時に満たせます。

注 運営基準や加算要件、BCPの詳細は法改正・報酬改定で更新されます。

最新の厚生労働省通知、自治体の指導要綱、日本看護協会の最新ガイドラインを必ず確認し、事業所内規程に反映してください。

【要約】
感染対策は標準予防策が基本。物品は清潔・不潔を区分し、清潔→不潔の動線を守る。訪問順は清潔度の高い処置や易感染(免疫抑制・新生児等)を前半、感染症疑い・排泄/創部滲出多は後半。訪問毎に手指衛生・PPE交換・機器消毒を徹底し交差汚染を防ぐ。